帰省先で犬が戸惑いやすいときに持参したい普段のもの

玄関に荷物を並べ、犬がそのそばを何度も行ったり来たりする。帰省の前には、そんな時間があります。

飼い主さんにとっては慣れたご実家でも、犬にとってはにおいも床の感触も、聞こえる生活音も違う場所です。親戚の声、台所の食器の音、いつもより頻繁な玄関の開閉。歓迎されていても、犬の頭の中では少しずつ情報が増えていきます。

モモは人が大好きなので、知らない場所でも最初は張り切るタイプです。ただ、みんなが集まる席では落ち着かず、あちこちの顔を見ては小さく息をつくことがあります。一方のナナは、部屋の隅や壁際を選んで静かに過ごします。家では平気なことでも、場所が変わるとそれぞれの戸惑い方が出るものです。

帰省の支度では、新しい便利な品を増やすより、毎日使っているものを少し丁寧に集めるほうを私は選びます。犬にとって「いつもの」は、目に見える形よりも、手触りやにおい、飼い主さんとの繰り返しの中に残っているからです。

最初に広げたいのは、犬の居場所になる布

普段から使っているベッド、敷物、薄手の毛布。大きくなくても、犬が家で体を丸めるときに使っている一枚があると役に立ちます。

帰省先に着いたら、まず人の通り道から少し外れた場所にそれを敷いてみてください。「ここにいていい」と教え込むというより、犬が自分から戻れる場所をつくる感覚です。到着してすぐに親戚へ順番にあいさつをさせるより、少し匂いを嗅ぎ、伏せられる時間を先につくったほうが、私は自然だと思います。

洗い立ての新品より、普段使いのものが向くこともあります。もちろん、汚れや傷みが気になるなら清潔なものに替えてください。それでも帰省の日だけは、家のにおいがほんの少し残る布を一枚入れておくと、犬の居場所を決めやすくなります。

食器とごはんは、急に変えない

食べ慣れたフード、おやつ、いつもの器、水を飲む器も持参します。帰省先では、普段より食が細くなる犬もいます。場所が違うだけで、食べる順番や水を飲む場所まで慎重になる子がいるからです。

このとき、せっかくだからと新しいおやつを増やしすぎないほうが無難です。ごちそうを少し楽しむことと、食べ慣れないものを次々に出すことは別の話です。家族が犬をかわいがってくれる場面ほど、飼い主さんが「今日はこれだけにしますね」とやわらかく決めておくと、犬もお腹も落ち着きます。

食べない、飲まないだけでなく、ぐったりしている、呼吸が苦しそう、立てない、吐くなどの様子があるときや、飼い主さんが心配なときは、犬具や持ち物の工夫より獣医さんなど専門家への相談を優先してください。

散歩は「いつもの合図」を持っていく

帰省先の散歩は、犬にとって小さな探検です。道幅、車の音、ほかの犬の気配、門の開く音まで違います。出発前にリードを持つ手が慌てていると、その緊張は案外まっすぐ犬へ伝わります。

犬具屋としては、知らない場所で強くコントロールすることより、飼い主さんの手元と犬の歩く速さをいつもの調子に戻せる支度を優先したいです。

工房でリードを仕立てていると、持ち手はただ手を通す部分ではなく、飼い主さんが一度持ち直すための場所でもあると感じます。帰省中は荷物を持ったまま急いで外へ出ず、散歩用のものをひとまとめにして、出る前に一呼吸おく。モモのように気になる人を見つけて前へ出たがる子でも、手元が落ち着いていれば、こちらも声を荒らげずに済みます。

道の中央が苦手なナナのような子なら、無理に知らない大通りへ連れていかず、壁際や静かな脇道を選びます。距離を稼ぐ散歩ではなく、帰省先の空気を少しずつ確かめる散歩で十分な日もあります。

翌日まで使うものは、ひとつの袋に戻す

帰省中は、人の手伝いや食事の支度で、犬のものがあちこちへ散らばりがちです。タオル、水入れ、排せつ用品、普段の散歩用品。使ったあとに同じ袋へ戻す場所を決めるだけで、次に外へ出るときの慌ただしさが減ります。

特にタオルは、足を拭くためだけではありません。雨上がりや食後に口まわりを整えたり、車内の座席に敷いたり、少し冷えるときに膝の上へ置いたりと、思いのほか出番があります。家のものと同じ手触りのタオルなら、犬も受け入れやすいように見えます。

持ち物をまとめる習慣を帰省先でも続けたい飼い主さんは、お散歩用トートのように、散歩の道具とタオルを一か所に戻せる入れ物を使うのもひとつです。新しい道具を増やすためではなく、「戻す場所」を毎回同じにするための方法として考えると続けやすいと思います。

今日から試せる実践Tips

帰省用の袋に毛布、器、タオルをまとめる飼い主とそばで見守る犬

帰省の荷造りを始める前に、犬の普段の一日を朝から順に思い出してみてください。起きたら何の上で休むか。何の器で水を飲むか。散歩の前に飼い主さんは何を手に取るか。帰宅したらどのタオルを使うか。

  • 寝床になる布を一枚、荷物のいちばん上へ入れる
  • フードと器は、普段使いの組み合わせで用意する
  • 散歩用品とタオルは、帰省中も同じ袋へ戻す
  • 到着後は犬の居場所を先に整え、人とのあいさつはそのあとにする

全部を完璧にそろえなくてもかまいません。犬が「これは知っている」と感じられるものが二つ三つあれば、見知らぬ部屋で足を止めたときの支えになります。

帰省は、犬にも家族の時間です。けれど犬は、にぎやかさを楽しみながら少し疲れることもあります。いつもの布、いつもの器、いつもの散歩の手順を連れていく。そうした小さな準備があれば、帰りの車で眠る顔も、少しやわらぐ気がします。

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