成犬を迎えたら、最初に何から始める?

新しい家で犬が部屋の隅にいたり、呼んでも近づかなかったり。そんなとき、最初にするのは仲よくなるための働きかけではなく、静かに休める場所と、予測しやすい一日の流れをつくることです。成犬を家族に迎えるときは、距離を縮めるより先に「ここでは急かされない」と伝えるところから始めます。

まずは、犬から近づける余白を

飼い主さんとしては、歓迎の気持ちを伝えたくて、目を合わせたり、名前を呼んだり、手を差し出したくなるものです。でも犬にとっては、知らない部屋のにおい、床を歩く足音、家具の位置だけでも、受け取る情報がたくさんあります。親切のつもりの声かけも、相手がまだ休みたいときには、返事を求められているように感じるかもしれません。

犬が自分で離れられる場所をひとつ決めて、そこでは追いかけたり、のぞき込んだりしない。水や寝床を近くに置くなら、通り道をふさがない位置にします。犬がこちらを見ても、すぐに手を伸ばさなくて大丈夫です。目が合ったら、いつもの調子で過ごす。それだけの時間も、関係をつくる一部です。

最初に必要なのは、犬が飼い主さんを好きになることではありません。近づく、離れる、休むを自分で選べること。こちらからの「仲よくしよう」が続くより、何も起きない時間があるほうが、犬には状況をつかみやすいのでは、と私は思っています。

食事や散歩は、順番をそろえる

環境が変わったばかりの犬には、楽しいことをたくさん用意するより、次に何が起きるかを予測できることが助けになる場合があります。起きる、食べる、休む、外に出る。毎回ぴったり同じ時刻にする必要はありませんが、暮らしの順番が大きく揺れないようにします。

食事を置いたら、食べる様子を近くで見守り続けるのではなく、少し離れて待つ。食器の音が止んだあとも、すぐに遊びへ誘わず、犬が次にどうするかを見てみます。食べ終えて寝床に戻るなら、それもその日の過ごし方です。初日から「食べたら遊ぶ」と決めなくてかまいません。

散歩も、まずは新しい道をたくさん歩くより、犬の反応を見ながら短く切り上げるほうを選びます。外で立ち止まる、においを確かめる、家に戻る方向を向く。そうした動きを、予定どおり歩かせる邪魔ものとして扱わないことです。犬具屋としては、強く進ませることより、飼い主さんと犬の動きが予測しやすい順番を優先したいです。

もちろん、迎える前の暮らしがわかる範囲であれば、食事や排せつ、散歩などの習慣を聞いておくと、最初の流れを考える手がかりになります。わからないことがあっても、すぐに全部を決めなくて大丈夫。犬の反応を見ながら、ひとつずつ合わせていけます。

近づいてきたときも、すぐ触らなくていい

犬がそばに来たら、いよいよ撫でてよい合図だと思うかもしれません。けれど、近くに来ることと、触られることを望んでいることは同じとは限りません。犬が少し離れた位置で座ったら、その距離のまま過ごしてみます。こちらの手が動くたび犬が身を引くなら、手を止めて、またいつもの時間に戻ります。

犬の体がゆるみ、こちらのそばにいてもすぐ立ち去らない。そんな変化が見えたら、声をかける、手のにおいを嗅げる位置に置くなど、ひとつずつ試します。反応が薄ければ、それ以上は進めません。仲よくなる競争ではないので、今日の成果を数えなくていいのです。こちらが「今だ」と思ったときに限って、犬は部屋の反対側へ移動する。人間の段取りとは、なかなか相談がつきません。

食べない、眠れないなどの変化が続いたり、急に様子が変わったりしたときは、慣れる途中だと決めつけず、譲渡元や獣医さんなどに相談してください。行動の理由を家だけで判断しなくてよいこともあります。

今日から試せる実践Tips

寝床で休む成犬に手を伸ばさず、少し離れて座る飼い主

今日できるのは、犬が休んでいるとき、ひと区切りの時間をこちらから何も求めずに過ごすことです。呼ばない、触らない、寝床をのぞかない。犬が自分から動いたら、その選択を待ちます。

新しい家で暮らす順番をつくるのは、犬だけの仕事ではありません。飼い主さんも、声をかける回数を少し減らして、同じ部屋で静かに過ごしてみてください。仲よくなることは、急いで始めるより、急かさない時間のあとからついてくることがあります。

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