リードを手に取ると、別の部屋にいた犬がこちらを見る。ところが「おいで」には、耳だけこちらを向いて足は動かない。聞こえないふりというより、「散歩」と「おいで」では犬にとって言葉の意味も、その後に起きることも違います。まずは安全な場所で、近い距離から呼び、来たらうれしい結果につなげてみてください。
「散歩」は合図というより、次の楽しみの予告かも
散歩という言葉のあとには、玄関へ向かう、リードが出てくる、外の匂いを嗅ぐ、といったおなじみの流れがあります。犬は言葉だけでなく、飼い主さんの動きや、リードの金具が触れ合う音も手がかりにしているのかもしれません。
一方で「おいで」は、その場から離れて飼い主さんのところへ来る合図です。遊びや匂い嗅ぎの途中なら、犬には今の楽しみをいったん止める言葉として伝わっている可能性もあります。こちらには短いひと言でも、犬にとっては「今していることを中断してね」なのですね。呼んだら来るのが当然、とは限りません。
来ないときに何度も「おいで、おいで」と重ねると、合図が聞き流される形になりがちです。飼い主さんの声だけが少しずつ大きくなり、犬はその場で耳を立てたまま。そんな、会話のようで会話にならない時間が生まれることもあります。
来ないときは、場所と距離を先に変える
練習は、車や自転車が通らず、犬が急に走り出しても危険のない場所で行います。室内など刺激が少ないところで、犬が飼い主さんの近くにいるときに一度呼んでみましょう。名前を呼んでから「おいで」と伝えるなら、毎回同じ流れにします。
こちらへ来たら、すぐに明るい声で伝え、犬が喜ぶことを返します。食べ物を使う場合も、犬が食べられるものを少量にするなど、その子に合う方法で。来た直後に毎回リードをつけて楽しい時間を終わらせると、「行くと遊びが終わる」と結びつくことも考えられます。呼び戻しは、来たら必ず捕まえる合図にしないこともポイントです。
屋外で試すときは、リードを使い、犬が離れてしまわない範囲で練習します。犬具屋としては、強く引いて動かすことより、合図を出す距離と状況をそろえるほうを優先します。呼んでも反応しにくい場所では、練習の難度が高すぎるのかもしれません。いったん距離を縮めて、できる場面をつくりましょう。
来ないままでも、追いかけて追い込まない
呼んでも来ないからと追いかけると、犬が遊びのように受け取ったり、さらに離れたりすることがあります。安全を確保したうえで、声を重ねるのをやめ、犬の注意が向くのを待って距離を詰めます。道路や出入口の近くでは練習せず、まずリードで行動範囲を確保してください。
以前はできたのに急に反応が変わった、ほかの様子にも気がかりがある、という場合は、しつけだけで理由を決めつけないこと。ぐったりしている、呼吸が苦しそう、立てない、吐くなどの様子があるときや、飼い主さんが心配なときは、練習や犬具の工夫より獣医師など専門家への相談を優先してください。
今日から試せる実践Tips

今日の一回は、家の中で犬が近くにいるときに「おいで」と呼び、来たらその場でほめて終わりにしてみましょう。最初から遠くで呼ぶ必要はありません。まずは、呼ばれて行った先で嫌なことばかり起きるわけではない、と経験を重ねること。散歩の言葉にだけ反応する名人も、近い一歩なら応じてくれるかもしれません。


