夕方、台所からごはんの用意をする音が聞こえると、犬たちがそれぞれの場所から顔を上げる。片方は早足で近づき、もう片方は少し離れたところで静かに待っている。食べる速さも、待ち方も、休みたい場所も、犬によって少しずつ違います。
多頭で暮らしていると、犬同士が仲よく見えていても、食事や休む時間には「自分のペース」を保てる場所があると落ち着きやすい場合があります。今回は、食事や休む場所を犬ごとに分けるときの考え方を、日々の暮らしの中で取り入れやすい形でまとめます。
分ける目的は、犬同士を遠ざけることではありません
食事場所や休む場所を分けるというと、犬同士の関係が悪いから必要なのでは、と感じる方もいるかもしれません。けれど実際には、仲のよい犬たちでも、それぞれが安心して過ごせる余白をつくるための工夫と考えるとよいでしょう。
人でも、食事中に近くで急かされたり、眠いときにすぐ隣で動き回られたりすると落ち着かないことがあります。犬も同じように、相手の気配が近すぎると、急いで食べたり、休んでいるようで休みきれていなかったりする場合があります。
食事場所は「距離」と「向き」を見て整える
食事の場所を分けるときは、まず器と器の距離を少し取ることから考えます。部屋を完全に分ける必要があるとは限りませんが、互いの器をのぞき込みにくい配置にしておくと、落ち着いて食べやすくなる場合があります。
- 器同士を横並びに近づけすぎない
- 食べている犬の背後を、別の犬が通りにくい場所にする
- 壁際や家具の角など、逃げ場が少ない場所に追い込まれた形にならないようにする
- 食べ終わる速さが違う場合は、早く食べ終わる犬の動きを見ておく
向かい合わせで食べる配置は、犬によっては相手の動きが気になりやすいことがあります。少し斜めにする、視線が直接ぶつかりにくい向きにするなど、小さな調整でも様子が変わる場合があります。
食べ終わった後の動きも大切に見る
食事中だけでなく、食べ終わった後の動きも確認しておくと安心です。早く食べ終えた犬が、まだ食べている犬の器に近づくことが続くと、近づかれる側が急いで食べるようになる場合があります。
そのようなときは、食べ終わった犬をそっと別の場所へ誘導したり、食後に落ち着いて過ごせる場所を用意したりするとよいでしょう。叱って止めるよりも、最初から近づきにくい流れをつくっておくほうが、家族も犬も穏やかに過ごしやすくなります。
休む場所は「選べること」が助けになります
休む場所については、一頭につき一か所だけと決めすぎず、犬が選べる余地を残しておくとよいでしょう。ベッド、マット、クレート、家族の近くの敷物など、いくつかの落ち着ける場所があると、その日の気分や室温、家族の動きに合わせて移動しやすくなります。
ただし、特定の場所を一頭がいつも占めていて、もう一頭が近づきにくそうにしている場合は、同じくらい居心地のよい場所を別に用意してみるのも一つです。日当たり、風の通り、家族からの距離、床の硬さなど、犬が好む条件は意外と細かいものです。
家族の動線と重ならない場所を選ぶ
休む場所をつくるときは、人の通り道と重なりすぎないことも大切です。廊下の真ん中、台所の足元、ドアのすぐ前などは、家族の動きが多く、犬が落ち着きにくい場合があります。
一方で、家族から完全に離れた場所よりも、少し気配を感じられる場所を好む犬もいます。リビングの端、棚の横、窓際から少し内側に入った場所など、家族の様子を見ながらも邪魔されにくい位置を探してみるとよいでしょう。
水飲み場は一か所にこだわりすぎない
食事場所を分けていても、水飲み場が一か所だけだと、犬同士のタイミングが重なることがあります。特に、よく水を飲む犬と、相手がいると遠慮しやすい犬が一緒に暮らしている場合は、水の場所を複数用意しておくと安心です。
置き場所を増やすときは、倒れにくい位置か、床が濡れても拭き取りやすいかも確認しておきます。水まわりは毎日のことなので、犬にとって使いやすく、家族にとっても手入れしやすい場所にしておくことが続けやすさにつながります。
年齢や体調の変化で、ちょうどよい距離は変わります
若いころは気にせず並んで食べていた犬でも、年齢を重ねるにつれて、静かな場所を好むようになる場合があります。また、新しく迎えた犬がいるとき、引っ越しや模様替えをしたときなども、これまでの配置が急に合わなくなることがあります。
食べる速さ、器への近づき方、休む場所の選び方、相手が近づいたときの表情や体の向きなどを、日々の中で無理なく様子を見ておくとよいでしょう。気になる変化が続く場合は、暮らしの環境だけで判断せず、必要に応じて専門家に相談できると安心です。
道具より先に、犬の過ごし方を見る
食事台やベッド、マットなどを新しく用意する前に、まずは犬たちが今どこで落ち着いているかを見てみます。家族がよかれと思って用意した場所よりも、犬自身が選んでいる場所に、ヒントがあることも少なくありません。
よく休んでいる場所にマットを敷く、食事中に落ち着きやすい向きへ器を動かす、通り道から少しだけ離す。大がかりな模様替えでなくても、今の暮らしに合わせた小さな調整から始められます。
それぞれの犬に「ここなら大丈夫」を用意する
多頭暮らしでは、犬同士が一緒に過ごす楽しさがあります。その一方で、食べるとき、眠るとき、少し離れたいときに、それぞれの犬が自分の場所を持てることも大切です。
場所を分けることは、犬たちを切り離すためではなく、同じ家で気持ちよく暮らすための下支えです。器の位置、ベッドの向き、水飲み場、家族の動線。毎日の中で少しずつ見直しながら、その犬らしく落ち着ける距離を探していけるとよいですね。


