夕方の台所で、ごはんの支度をしていると、愛犬が足元にやってきます。お母さんは「待ってね」と声をかけ、お父さんは「まだだよ」と言い、お子さんは「おすわり」と言う。どの言葉も愛情から出たものですが、犬にとっては少し迷いやすい場面かもしれません。
家族で犬と暮らしていると、声のかけ方は人によって少しずつ違います。厳しくそろえなければならない、ということではありません。ただ、日々よく使う言葉だけでも家族で確認しておくと、犬が落ち着いて受け取りやすくなる場合があります。
まずは「よく使う場面」を出し合う
声かけをそろえるときは、しつけの言葉だけを考えるより、毎日の暮らしの中でよくある場面から見ていくと話しやすくなります。
- ごはんの前
- 散歩に出る前
- 玄関や門を出るとき
- 来客があったとき
- ブラッシングや足拭きをするとき
- 寝る前や休ませたいとき
こうした場面で、家族がそれぞれどんな言葉を使っているかを一度出してみます。「うちは意外と同じ言葉を使っていた」「同じつもりで違う言葉を使っていた」と気づくことがあります。
言葉は短く、家族が言いやすいものに
犬に伝える言葉は、短くて家族が自然に言えるものが続きやすいでしょう。たとえば「待って」「おいで」「ゆっくり」「休もう」など、日常の中で無理なく口にできる言葉です。
大切なのは、立派な言葉を選ぶことではなく、同じ場面で同じ意味として使うことです。「待って」と「まだだよ」をどちらも使うより、家族の中では「待って」にしておく、というように決めておくと犬が受け取りやすい場合があります。
ただし、急にすべてを変える必要はありません。まずは毎日よく使う言葉を数個だけ選び、様子を見ておくとよいでしょう。
声の大きさと調子も話し合っておく
同じ言葉でも、声の大きさや調子が違うと、犬の受け取り方が変わることがあります。家族の誰かが強い声で言い、別の人がやさしく言うと、犬が戸惑う場合もあります。
特に、急いでいる朝や、来客時、散歩前のように人の気持ちも動きやすい場面では、つい声が大きくなりがちです。そんなときほど、家族で「落ち着いた声で短く伝える」ことを確認しておくと安心です。
犬を驚かせるためではなく、次にしてほしいことをわかりやすく伝える。そう考えると、声かけの雰囲気も自然に整いやすくなります。
「ほめる言葉」もそろえておく
注意する言葉だけでなく、ほめる言葉も家族でそろえておくと、犬にとってわかりやすい合図になります。
「いいね」「上手」「そうそう」など、家族が言いやすい言葉でかまいません。できた瞬間に、落ち着いた明るい声で伝えることを意識します。
ほめる言葉が人によって違っていても大きな問題になるとは限りませんが、家族の中でよく使う言葉が決まっていると、犬が「今の行動でよかったんだな」と受け取りやすい場合があります。
人によってルールが変わりやすい場面を確認する
家庭の中で犬が迷いやすいのは、人によって対応が変わる場面です。
- ソファに乗ってよいか
- 食卓の近くにいてよいか
- 散歩前に玄関でどこで待つか
- 来客時にどの部屋で過ごすか
- おやつをもらうタイミング
こうしたことは、どれが正解というより、家族の暮らし方に合っているかが大切です。ただ、ある人は許し、別の人は止めるという状態が続くと、犬が判断しにくくなる場合があります。
「うちではここまでにしよう」と家族で話しておくと、人も犬も落ち着いて過ごしやすくなります。
散歩中の声かけは、短く少なめに
散歩中は、犬にとって匂い、音、人や車の動きなど、気になるものがたくさんあります。家族がそれぞれ違う言葉をたくさんかけると、かえって伝わりにくいことがあります。
たとえば「行こう」「ゆっくり」「待って」など、散歩中によく使う言葉を少しだけ決めておくとよいでしょう。リードを持つ人が変わる家庭では、歩き始めや立ち止まるときの声かけをそろえておくと、犬も状況をつかみやすくなる場合があります。
声だけでなく、リードを急に引かない、立ち止まるタイミングを一定にするなど、人の動きも合わせて確認しておくと安心です。
子どもや高齢の家族にも使いやすい言葉にする
家族みんなで犬に声をかけるなら、誰かにとって言いにくい言葉は続きにくいものです。小さなお子さんや高齢の家族がいる場合は、短く、聞き取りやすく、日常で使いやすい言葉を選ぶとよいでしょう。
また、家族の中で声の大きさが出にくい人がいる場合は、言葉だけに頼らず、手の合図や体の向きも一緒に使う方法があります。手を止める、少ししゃがむ、ドアの前で一度立ち止まるなど、家庭でできる範囲の合図を決めておくと役立つことがあります。
うまくいかない日があっても、責めない
声かけをそろえようとすると、家族の誰かがつい違う言葉を使うこともあります。忙しい日や、犬が興奮している場面ではなおさらです。
そのたびに責め合うより、「この場面はどの言葉にするんだっけ」と軽く確認できる雰囲気のほうが続きやすいでしょう。犬との暮らしは毎日の積み重ねです。家族も犬も、少しずつ慣れていくものとして見ておくと、気持ちが楽になります。
メモにして見える場所に置いておく
決めた言葉は、家族だけが見られる小さなメモにしておくと便利です。冷蔵庫の横や玄関の棚など、日常の中で目に入る場所に置いておくと、忘れにくくなります。
- ごはん前は「待って」
- 呼ぶときは「おいで」
- 散歩の出発は「行こう」
- 落ち着かせたいときは「休もう」
- ほめるときは「いいね」
あまり細かく決めすぎると負担になることがあります。最初はこのくらいの簡単な内容から始め、暮らしに合わせて見直していくとよいでしょう。
犬具まわりの合図も、家族で確認しておく
首輪やリードをつけるとき、散歩バッグを持つときなど、犬具に関わる動作も犬にとっては合図になりやすいものです。誰かが首輪を手に取るとすぐに散歩だと思う犬もいます。
「首輪をつける前は一度待つ」「リードを持ったら玄関で落ち着いてから出る」など、家族の動き方を少しそろえておくと、日々の支度が落ち着きやすい場合があります。
サクラ犬具製作所では、暮らしの中で長く使いやすい首輪やリードをお作りしています。声かけや合図を見直すタイミングで、今使っている犬具が家族の散歩やお手入れの流れに合っているかも、あわせて確認しておくと安心です。
家族で同じ方向を向くことが、犬の安心につながる
犬への声かけをそろえることは、厳しいルールを作ることではありません。家族が同じ場面を見て、同じような言葉で伝えようとすることです。
犬は毎日の暮らしの中で、人の声や動き、雰囲気をよく見ています。家族の声かけが少し整うだけでも、犬が次に何をしたらよいかを受け取りやすくなる場合があります。
まずは、ごはん前、散歩前、呼び戻すときなど、身近な場面からで十分です。家族でお茶を飲みながら、「うちではどんな言葉にしようか」と話してみる。そんな小さな相談が、犬との暮らしを少し穏やかにしてくれるかもしれません。


