散歩中、犬を見つけて「かわいいね」と手を伸ばす人がいます。犬好きな気持ちは同じでも、犬が自分から近づく相手には、少し違うところがあるようです。答えは、好きな気持ちの大きさより、犬の反応を待ち、距離を合わせること。好かれようと急がない人ほど、犬にとっては気楽なのかもしれません。
犬好きの気持ちは、犬には見えにくい
犬が好きな人は、犬を見つけると声が弾んだり、目を合わせたり、撫でようとしたりします。どれも親しみから出る行動です。ただ、初対面の犬にとっては、知らない人が正面から近づき、顔をのぞき込み、手を伸ばしてくる場面でもあります。
人なら「歓迎されている」と受け取れる笑顔も、犬が同じ意味に感じるとは限りません。犬の気持ちを決めつけることはできませんが、急な動きや近い距離に戸惑う犬はいます。好きだから近づく、ではなく、好きだから相手の反応を待つ。そのひと呼吸が、案外大きな違いになります。
犬に好かれる人は、特別な技を持っているというより、犬の様子を見て自分の動きを変えています。犬がこちらを見ても、すぐ手を出さない。犬が離れたら追いかけない。気持ちは前のめりでも、体は少し控えめ。犬にとっては、その控えめさがわかりやすいのでは、と私は思います。
手を伸ばす前に、犬が選べる余地を
たとえば、道端で飼い主さんと一緒にいる犬に会ったとき。まず飼い主さんに触れてよいかを尋ね、犬がこちらを見ているか、体をこわばらせていないかを見ます。許可があっても、犬が乗り気とは限りません。犬が後ろへ下がったり、顔をそむけたりしたら、そこで止めます。
近づくときも、犬の正面に立って頭を撫でようとするより、少し横を向いて静かに待つほうが、圧迫感を減らせることがあります。手のひらを鼻先に押しつけて「嗅いでごらん」とする必要もありません。犬が近寄らなければ、それがその場の返事です。
私は、犬に好かれることを目標にしすぎなくていいと思っています。犬が近づかないときに、がっかりして距離を詰めると、犬にはその焦りが伝わるかもしれません。挨拶できなくても、互いに落ち着いてすれ違えたら十分。人間同士でも、初対面から握手を求められると少し驚きますから。
犬の反応は、ひとつのサインだけで決めない
しっぽを振っているから喜んでいる、近づいてきたから撫でてよい、とひとつの動きだけで判断するのは避けたいところです。体全体の様子や、その場の状況を合わせて見ます。犬はそれぞれ違いますし、同じ犬でも相手や場所によって反応が変わります。
玄関で家族を迎える犬と、散歩中に初めて会う人を前にした犬では、置かれた状況が違います。ふだん人に親しげな犬でも、休んでいるときや食事中はそっとしておきたいかもしれません。犬好きな人の「触れ合いたい」という願いより、犬がいま何をしているかを先に見る。そこに、犬の側へ気持ちを寄せる手がかりがあります。
サクラ犬具製作所は犬具をつくる店ですが、犬との関係も、道具と同じく一方の都合だけで決められないと感じます。犬具屋としては、こちらの期待どおりに反応してもらうことより、犬が無理なく選べる余地を残すことを優先したいです。
今日から試せる実践Tips

次に犬と会ったら、まず立ち止まり、犬が自分から近づくかを待ってみてください。近づかなければ、追わずにそのまま通り過ぎます。撫でることを挨拶のゴールにしない。犬にとっての「今日はここまで」を尊重するのも、犬が好きな人にできる接し方です。


