久しぶりに会った人の足音に、犬がふと顔を上げる。犬は何年ぶりでも、その人を覚えている場合もあります。手がかりは顔だけではなく、においや声、動きなど。反応が控えめでも、忘れたとは限りません。
顔より先に、においや声が手がかりに
犬が人を見分けるとき、目に映る姿だけを頼りにしているわけではありません。人には同じように聞こえる声でも、犬にとっては声の高さや調子が手がかりになります。歩くときの足音や、体の動かし方も、見覚えならぬ「聞き覚え」の一部かもしれません。
とくに、においは人が想像する以上に大きな手がかりです。犬は鼻を近づけて、服や手のにおいを確かめます。顔を見てすぐ駆け寄るより、鼻先を動かして、少し離れた場所から様子をうかがう。そんな再会もあります。
犬は、相手と一緒にいたときの経験と、その人の特徴を結びつけて覚えているのでは、と私は考えています。昔よく遊んだ人の声や、いつもの撫で方まで、別々ではなくひとまとまりの手がかりになっているのかもしれません。犬の記憶を、人のように「何年分」と測ることはできませんが、長く会っていなかった相手を見分ける可能性はあります。
覚えていても、反応は同じとは限らない
再会した犬が尻尾を振って近づくこともあれば、立ち止まってにおいを確かめることもあります。すぐに気づいたように見えなくても、緊張や周囲の音、人の動きに気を取られているのかもしれません。反応だけで「忘れた」と決めるのは早そうです。
人の側は、再会の瞬間に抱きしめたくなるものです。でも、犬には相手を確かめる時間が必要なこともあります。急に手を伸ばしたり、顔を近づけたりすると、犬が身を引くことも。まずは少し距離を取り、落ち着いた声で呼びかけて、犬から近づくのを待ちます。
犬の反応は、その日の体調や気分、場所によっても変わります。覚えていたかどうかを試すように何度も呼ぶより、犬が自分のペースで確かめられる場をつくるほうが、再会を穏やかに始められます。
久しぶりの再会は、犬のペースで
久しぶりに会う人には、最初から大きな声で呼んだり、犬の正面から迫ったりせず、横向きで静かに待ってもらいます。犬が鼻を動かし、耳を向け、少しずつ距離を縮めるなら、そのまま見守ります。犬が離れたら追わず、落ち着く時間を取ります。
懐かしい人に会えたうれしさは、飼い主さんにも犬にもあるかもしれません。ただ、犬は人の期待どおりの再会の演出をしてくれるとは限りません。感動の再会の横で、犬がまず靴のにおいを調査していることもあります。そちらが先でも、犬らしい確認のしかたです。
犬具をつくる側としても、再会の場面では何かを足すより、犬が落ち着いて相手を確かめられる余白を優先したいと思います。においを嗅ぐ時間も、少し離れて眺める時間も、その犬なりの「思い出し方」かもしれません。
今日から試せる実践Tips

昔から知っている人と犬が会う日は、相手にまず声をかけてもらい、犬が近づくまで待ってもらいましょう。飼い主さんはリードを急に引かず、犬が離れたくなったときに動ける余裕を保ちます。犬が近づいたら、手を頭の上からかぶせるのではなく、相手の横で静かに過ごしてもらいます。
その日の犬の様子を見ながら、短い挨拶で終えてもかまいません。今日できることは、犬に会わせたい人へ「まずは待っていてね」と伝えることです。


