散歩の前に「待って」、玄関で「おすわり」、外に出てからも「こっち」。愛犬を「いい子」にしようと、つい声をかける回数が増えていませんか。まず試したいのは、教えることを増やすより、いつもの順番をそろえることです。犬にとっては、飼い主さんの合図が少なく、次の動きが予測できるほうが伝わりやすい場面もあります。
「いい子」は、指示にすぐ従う子だけではない
飼い主さんが考える「いい子」は、決めた場所で待つ、呼べば来る、知らない人にも落ち着いている、といった姿かもしれません。けれど、犬の側から想像すると、何をすれば正解かを何度も探す時間は、ちょっと忙しいものです。
たとえば散歩に出る支度。首輪やリードを手に取る音がして、犬が玄関へ向かう。そこで「おすわり」「待って」「まだ」と続けて言われたら、どの合図に応えればいいのか迷うこともありそうです。もちろん、犬の反応の理由は一頭ずつ違います。ただ、声を重ねたぶんだけ伝わるとは限りません。
ここで少し意外なのは、飼い主さんが熱心に教えるほど、犬にとっての「合図」が増えてしまうことです。言葉が増えると、犬が聞き分ける材料も増えます。人間だって、出かける直前に「靴を履いて、鍵を持って、待って、やっぱり戻って」と続いたら、靴のまま立ち尽くすかもしれません。犬ならなおさら、飼い主さんの顔を見て答え合わせをしたくなる場面がありそうです。
教える量より、順番と速さをそろえる
犬は言葉の意味だけでなく、声の調子や体の動き、毎回の流れからも手がかりを得ていると考えられます。玄関でリードをつける、少し待つ、ドアを開ける。そんな順序が大きく変わらなければ、犬は次に何が起きるかをつかみやすくなります。
一方で、急いでいる朝は、飼い主さんの手も声も速くなりがちです。金具が小さく鳴り、リードが床をかすめる音がする。犬が動くたびに「待って」と言い直すと、声のほうが散歩より先に走っていくことも。焦る気持ちはよくわかりますが、毎回きれいにできるかを採点する必要はありません。
サクラ犬具製作所としては、正解の動きを一度で増やすより、犬が次を読み取りやすい順番を優先したいと考えています。犬具屋としては、強く制することより、飼い主さんと犬の動きが落ち着いて続くことを大事にしたいです。これは、どんな犬にも同じ手順が合うという話ではありません。家の中や散歩の状況に合わせて、まず一つの場面だけを選べば十分です。
できない日を、しつけの成績にしない
いつもできていたことが、その日はうまくいかない。周囲の音が気になる、道の様子が違う、飼い主さん自身が急いでいる。理由を決めつけず、「今日はいつもと違う条件があるかな」と立ち止まるくらいでよいのです。失敗のたびに練習を追加すると、散歩のたびに宿題がついてくるようなもの。犬も飼い主さんも、少し息切れします。
特に、急に行動が変わったり、ぐったりしている、呼吸が苦しそう、立てない、吐くといった様子があるときは、しつけや道具で解決しようとせず、獣医師などの専門家への相談を優先してください。普段のしつけの悩みと、体調や安全に関わる心配は分けて考えます。
今日から試せる実践Tips

次に犬が落ち着かないと感じたら、すぐに指示を足す前に、飼い主さんの動きを一つゆっくりにしてみてください。散歩の支度なら、声をかける回数を増やすのではなく、いつもの順番で道具を手に取り、犬が動くのを少し待つ。犬がどう反応するかを見てから、必要な合図を一つだけ伝えます。
うまくできたかどうかより、犬が何に反応したかを眺めてみる。今日は声より、リードを持つ手の動きに気づいたのかもしれません。そうした小さな観察は、飼い主さんが一人で「いい子」の基準を高くしすぎないためにも役立ちます。今日、犬に声をかける前に一度だけ、いつもの順番でゆっくり動いてみてください。


