床に座り込んだ飼い主さんのそばへ、犬が近づいて鼻先で触れる。そんな姿を思い浮かべると、映画のように助けを呼んでくれるのでは、と期待したくなります。けれど、犬が助けを呼ぶとは限りません。そばにいる、離れて様子を見る、吠えるなど反応はさまざまです。犬に救助を任せず、人につながる備えを先に考えましょう。
犬は異変に気づいても、助け方まではわからない
いつもと違う姿勢や声、動きに、犬が反応することはあるでしょう。近くに来て顔をのぞき込んだり、体に鼻先を寄せたりするかもしれません。一方で、離れた場所から見ていたり、落ち着かない様子になったりすることも考えられます。
ただし、「気づくこと」と「誰かに知らせること」は別です。電話をかける、玄関を開ける、近所の人を呼ぶ。そうした行動を、犬が状況に応じてできると期待するのは難しいものです。特別な訓練を受けていない犬に、映画のような役割を求めることはできません。
犬の反応を「助けようとしている」「無関心だ」と、人間の言葉で決めつけないことも大切です。倒れた人のそばで、爪が床を小さく鳴らしながら行ったり来たりする。その動きは心配に見えるかもしれませんが、何を考えているかを外から断定はできません。犬にとっては、飼い主さんのいつもの様子と違うこと自体が、戸惑う場面なのではないかと私は思います。
頼る先は、犬ではなく人の連絡手段に
ひとりで過ごす時間があるなら、犬に助けを呼ばせる方法を考えるより、周囲の人が異変に気づける連絡の仕組みを用意するほうが現実的です。家族や信頼できる人と、連絡が取れないときの対応を話しておく。緊急時に誰へ連絡するか、犬の世話を誰に頼めるかも、無理のない範囲で決めておけます。
犬が別の部屋にいるとき、玄関まで行けるとは限りません。逆に、そばを離れずにいる犬が、助けを呼びに行けるとも限りません。犬の行動を前提にせず、人同士でつながる道をつくる。犬具屋として私が優先したいのも、犬に難しい役割を背負わせることではなく、飼い主さんが動けないときに人へ情報が届く備えです。
もし飼い主さんが倒れて、犬がそばにいる場面に遭遇したら、まず人の状態に対応してください。犬が驚いて動き回ることもあり得るので、無理に近づいたり、犬に何かをさせようとしたりせず、必要に応じて周囲の人や専門家の力を借りましょう。犬の様子も気になりますが、飼い主さんがぐったりしている、呼吸が苦しそう、立てない、吐いた、または心配があるときは、犬具の工夫より獣医師や救急を含む専門家への相談を優先してください。
犬のそばで、いつもの合図を確かめる
首輪やリードは、犬にとって散歩など次の行動を知らせる合図にもなります。けれど、飼い主さんが倒れたときに犬を動かしたり、助けを呼ばせたりする道具ではありません。慣れた合図があるから対応できる、と考えすぎないこと。犬具を作る側から見ても、道具にできることと、人の判断や連絡が必要なことは分けて考えたいところです。
犬と暮らす家では、首輪を着けているかどうかだけでなく、身元がわかる情報が身についた状態かも、日常の中で気にかけたい点です。ただし、それも人が連絡を取るための手がかりであって、救助の代わりにはなりません。犬の安全と、飼い主さんの緊急時の備えを、ひとつの道具にまとめて考えないようにしましょう。
今日から試せる実践Tips

犬がいつもの場所で休んでいるとき、そばで静かに名前を呼んでみてください。近づく、耳を動かす、その場にとどまる。反応はその犬らしく違います。これは緊急時の訓練ではなく、ふだんの反応を知るための短い観察です。犬に助けを期待する気持ちを、犬を知ることと、人に頼れる備えの両方へ向けてみましょう。


