ごはんの器を置く音に犬が顔を上げる。そんなとき、名前を呼んでから「どうぞ」と伝えてみませんか。名前は叱るときだけでなく、日々の穏やかな場面でも呼んでかまいません。何回という決まりはなく、名前のあとにうれしいことや落ち着いたやりとりが続く機会をつくるのが基本です。
名前のあとに、何が起きるでしょう
犬の名前は、飼い主さんがこちらを向いてほしいときに口にする言葉です。けれど、名前を呼ぶたびに叱られるなら、犬にとっては少し身構える合図になっていくかもしれません。犬がどう受け取るかは一頭ずつ違いますが、名前のあとに続くことが印象をつくる、という見方はできます。
たとえば、床に落ちたものをくわえた犬に「○○、だめ!」と声をかける。名前を聞いて犬が顔を上げたところに、強い声が続きます。これが何度も重なると、名前を呼ばれても近づかない、あるいは飼い主さんの顔色をうかがうように見えることもあります。ただし、それだけで行動の理由を決めつけることはできません。
大切なのは、叱る場面で名前を一切使わないことではありません。危険を避けるために声をかける必要もあります。それでも、名前を呼ぶ機会が注意や制止ばかりに偏っているなら、普段のやりとりにも戻してみる。そこが今回の答えです。
呼ぶ回数より、呼んだあとの流れ
「一日に何回呼べばいいですか」と数える必要はありません。決まった回数を目標にすると、今度は名前を何度も繰り返してしまいがちです。名前を呼んでも反応がないとき、声を重ねるほど犬に届くとは限りません。まずは犬がこちらを見られる距離や、落ち着いている場面を選びます。
犬がこちらを向いたら、やわらかい声でほめる、遊びを始める、ごはんを出す。そんな自然な流れで十分です。名前を呼ぶこと自体を、毎回おやつの合図にしなくてもかまいません。撫でられるのが好きな犬もいれば、少し離れて過ごしたい犬もいます。その子が心地よく受け取れるやりとりを選びます。
名前と「おいで」も、同じ役割にしなくて大丈夫です。名前は「こちらに気づいてね」という呼びかけにして、来てほしいときは「おいで」など別の言葉を添える方法があります。呼びかけに応じたら、来たことを落ち着いて歓迎します。名前を呼ぶたびに必ず来させようとすると、名前が重たい指示のようになることも。呼びかけと行動の合図を分けると、飼い主さんも言葉を選びやすくなります。
叱る場面では、名前を連呼しない
やめてほしいことがあるときは、まず短く、状況に合った言葉で伝えます。名前を何度も重ねて大きな声を出すより、必要な行動を具体的に促すほうが、何をしてほしいかが伝わりやすくなります。たとえば、口に入れてほしくないものから離れてほしいなら、「離して」「おいで」など、してほしい行動を示す言葉を使います。
犬がすぐに応じないと、つい名前が増えます。呼んで、呼んで、最後は飼い主さんのほうが息切れ。犬の名前が、家の中でいちばん忙しい言葉になってしまいます。反応がないときは、同じ呼び方を繰り返すより、距離や状況を変えられるか考えてみてください。
犬具をつくるサクラ犬具製作所としても、毎日の関わりは、強く働きかけることより、犬に伝わる順番を選ぶことを大切にしたいと考えています。名前を呼んだら、犬がこちらに気づく時間を少し置く。急かさず、そのあとの言葉を短くする。暮らしの中で続けやすい形を選びます。
今日から試せる実践Tips

今日一度だけ、犬が落ち着いているときに名前を呼び、顔を向けたら「そうだね」と穏やかに声をかけてみてください。食事の支度中でも、同じ部屋でくつろいでいるときでもかまいません。反応がなければ、続けて呼ばず、そのままにします。
名前を呼ぶのは、特別な練習の時間だけではありません。叱るときばかりだったかも、と気づいた日から、日常の何気ない場面にひとつ戻せます。


